『キラルの世界』

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 「でもどこを探せばいいの?」  主人が家の前を左右に伸びる道路を指さして、どちらに進む? というように右、左、と動かす。  「奏多は学校に行ったんだと思う。確かめたいんじゃないかな。鏡の中では自分がどう過ごしているのか」と影が左を指さした。  ーーうわあ。ま……、またあの坂を登るの?ーー   影の声が聞こえたのだろう。一来の胸ポケットからいつかの声が響いた。  「いつか、あなた留守番でよかったわねえ」からかうように主人が答える。  ーーもー! アイラちゃん……私だって必要ならあのくらいの坂……なんでもないんだからね!……ーー  荒い息で途切れ途切れに抗議するが、説得力はない。通話に荒い息づかいが聞こえないように気を付けてはいるが、息が切れているのは明白だ。どうやら机や椅子を積み上げ始めたが、早くも疲れてしまったようだ。  「はいはいっと」  主人はからかうように言って、笑っている。
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