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『さあ、では急ぎましょう』
私が言うまでもなかった。追われているように自然に歩くスピードがあがり、塩山中学校の前の坂道を黙って登っていく。
「グラウンドの位置が逆ね」
と言って、主人はグラウンドを囲むように立っている緑色の網目のフェンスを少し触る。手に埃が付いてしまったようで、眉間にしわをよせて手で埃をはらう。
「あっ、あいつ!」
一来がグラウンドの中を指さす。
「いないじゃない」
「奏多じゃなくて。いつも奏多をからかっている奴。グラウンドを走ってる」
向こうからも影の奏多を見つけたらしく、手を振って笑顔を向けてきた。どうやらキラル世界では、リアル世界とは違って良好な関係なのだろう。
「やっぱり単純に左右が逆の世界だという訳ではないんだね」
一来が不思議そうに尋ねる。奏多が酷いあだ名で傷つけられるのを見ていたので、どうも不思議に感じるようだ。
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