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『そうですね。エナンチオマーとリアルの世界の人間が同じではないように、キラルとリアルは似ていても違う世界なのです』
「キラルの世界の人には、自分がエナンチオマーだという自覚はあるのかな?」
『そうですね。先ほどのサカイ君のお母さんの様子を見ても、そう考えて間違いないでしょう』
「扉が閉まったら、キラルの世界はなくなるって言っていたよね」
『はい。そうなれば今いるエナンチオマーは消えてしまいます。それがわかっているのでリアル世界へ逃げ出したいのでしょう』
「じゃあ、言ってみればこの世界の全ての住人が……」
『私達がリアルだと知れば、キラルの扉の場所を言わせようと襲ってくるかもしれないということです』
思っていた以上に奏多を連れ戻すのは危険だとはっきりと肌で感じたのだろう。誰もが口をつぐみ、空気が暗く澱んだ。
紅霧がイライラと舌打ちした。クチナシの香りの風が四人を煽る。
「だからさ、エナンチオマーなんかに関わらないで、さっさと奏多お嬢ちゃんを連れて帰ればいいだけだろう? なにをグズグズ考えているのさ」
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