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ぼそりと答える声もメゾソプラノから少年の声に変わった。見た目は十代の少年のようで、中学校の制服姿だ。ワイシャツの第一ボタンをはずし、ズボンのウエストは緩めでやや腰の位置を下にずり落とすように履いている。
真っ黒な髪はまっすぐで、細くて猫っ毛だ。そして長めの前髪の間から上目遣いに覗く瞳も漆黒だった。
「ピュリュかあ。フラーミィも男だから、不思議はないのか。よろしく、ピュリュ」
一来は分厚い黒メガネの奥の目をまたたいて、奏多の影を足の先から頭のてっぺんまで視線を走らせる。
「そんなに……、見るなよ」
ピュリュはうつむいて前髪を指で引っぱり一来の視線から逃げるように、顔を背けた。それからうつむきがちな顔をふとあげると、フェンスにつかまってプールを見つめている生徒を指差した。
「いた」
「え? あ、ああっ! 奏多だ。見つけた!」
『おっと! お待ちください、一来』
走り出そうとする一来の首根っこを、すばやく掴んで引き止めた。グエッ! と喉から変な音が聞こえたようだが、それは無視しておく。
『まずは少し様子を見ましょう』
そのまま一来をズルズルと引きずり、木の影に隠れる。
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