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影であるピュリュが奏多を大事に思っている事が、くすぐったかったのだろう。そういう私も同じだが。
「奏多!」
プールサイドで男子部員が声をかけて走り寄る。プールが一つしかないので、水泳部は男女一緒に練習しているのだ。肩のあたりで手をパチンと合わせる。耳元に口を寄せ、一言、二言笑顔で交わし練習に戻っていった。
その様子を見ていたピュリュが身じろぎする。
「あいつがつけたんだ。あのあだ名」
奏多の影、ピュリュは前髪で隠れた目で、プールサイドを睨み、親しげな二人の様子に苛立たしげに肩を強張らせる。
奏多はしばらくプールを見ていたが、ため息とともに肩を落として、ふいにくるりと体を回し、私達の方に向かって歩いてきた。足元ばかりみていた奏多は、通路の真ん中に立ちはだかっている主人とぶつかりそうになって、ようやく立ち止まった。
「えっ? 一来さんと紅霧さん、ピュリュも……どうしてここに?」
奏多が驚いた声をあげる。そして私と主人を順番に見て、「ええっと……」と困った顔をした。
私達は奏多の姿をした影と話しているので、知り合いのようなつもりでいたが、奏多にしてみれば初対面なので、自然な反応だろう。
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