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ーーよかった。会えたんだねーー
胸ポケットからいつかの声が聞こえてきた。
ーー急かすようで悪いけど扉がまた閉まったよーー
「奏多。ここにいては危ないんだ。何があるかわからないし、奏多が開けた部屋の扉が閉まったら帰れなくなる。だからこの人達は一緒に奏多を探しに来てくれたんだ」
一来が早口で説明する。
ピュリュが黙って奏多に手を差し出す。奏多はその手を取らずに、後ろ手に手を組んで体を揺らしながらほんの数歩の範囲をさ迷う。
「そうなの? ボクはただ暇だったから、ちょっと外に出てみただけだったんだけど……。やっぱりココって鏡の中の世界なのか……」
「奏多が扉を開けてしまったから、一時だけ、鏡の世界に時間が流れているんだ。扉が閉まったら、ここはおそらくブラックホールに飲み込まれる。早く帰ろう」
「ここが消えてしまうのか……? 鏡のボク、幸せそうだったのになあ……。あいつらともあんなに仲良さそうで……。しばらく見ていたけど、ボクの事、誰もキズトンなんて呼んでなかった……」
目に涙を浮かべてつぶやく。
「ボク、鏡の世界に生まれたかったな」
「奏多」
「帰りたくないな……」
手の甲で目をこする。
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