『キラルの世界』

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 --もういい? どんどん扉が閉まっていくよ! 早く帰ってきて!ーー  その時、いつかの悲痛な叫び声が、一来の胸元から響いてきた。  「どういうこと?」  通話の音声を聞きつけた冬矢が怪訝な顔をして尋ねる。  「あんたには関係ないよ。奏多、この坊やに会えたんだから、もういいだろ。さあ、帰ろう」  紅霧が奏多の腕を強引に引っ張って歩き出した。  「待って、扉ってなに? 呼び止めたのはそっちだろ。それ位教えてくれてもいいでしょ?」  冬矢が追いかけてきて、奏多の反対側の腕を掴んで引き止めた。  その瞬間、ゴウッという風の音と共に、紅霧がおこした竜巻が冬矢を突き飛ばした。掴んでいた奏多の腕を離し尻もちをついた冬矢は、驚いて立ち上がることを忘れたようだった。クチナシの香りの小さなつむじ風が、攻撃の名残のように砂塵を巻き上げている。  「さあ、行くよ!」  地面に座り込んでいる冬矢には構わず、紅霧が奏多を急かす。
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