『キラルの世界』

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 「待て!」  我に返った冬矢が跳ねるように立ち上がって、道を塞いだ。  「おや。やる気かい。遊んであげたいけど時間がないんだ。それにエナンチオマーのお前さんにはそんな価値もないしね。扉がしまったらどうせ消えちまうんだから」  紅霧が言い放ち、冬矢の横を奏多を引きずって通り過ぎた。紅霧に引きずられて行きながら、奏多が振り返り冬矢に向かって言いつのった。  「だから! 一緒に逃げよう? この世界は消えちゃうんだって。  冬矢君はあの時、ボクを助けてくれた。足がすくんで歩けないボクの手を引いてくれた。自分も大変なのに……。  本当は見ていたんだ。あの日、冬矢君のお母さんが冬矢君をひどい言葉で罵っているところ……。ボクと同じだと思った。それなのに、冬矢君は困っているボクに手を差し伸べてくれた。話を聞いてくれた。優しくしてくれた……。  だから、だから違う世界のあなたなのかもしれないけど、今度はボクが助けたいんだ。一緒に行こう」
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