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「俺も行く! 消えるなんて真っ平だ。なんで俺はリアルじゃないんだ。俺だっていいはずだろ? ほとんど同じなんだから。 言え、扉はどこだ」
「見るな! 奏多っ」とピュリュが言うのと、奏多が反射的に自分の家の方角に視線をやるのが同時だった。
鏡の冬矢は奏多の視線を盗むと、用済みとばかりに体ごと奏多にぶつかって突き飛ばした。吹っ飛んだ奏多が思い切り地面に叩きつけられるのを見ると、鏡の冬矢はグシュリと裂けた口から余分な息を漏らし、耳障りな雑音のような笑い声を響かせ、奏多の視線が指していた方角に走り出した。
紅霧が影になって追いかけようとしたが、影にはなれなかった。鏡の中には太陽がないため、影が存在しないせいだ。
チッ、と舌打ちし冬矢を追って走り出したが、紅霧はあまり足が速くないらしい。さらにフレアースカートが風をはらんで膨らみ、足に絡みつくのも邪魔になるようだ。
みるみる距離が離れていくのを見かねて一来も走り出し、紅霧を追い越した。
主人とピュリュの手につかまって気丈に立ち上がった奏多に『私達も急ぎましょう』と声をかけて後を追う。
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