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私が鏡の出口に手をかけたとき、エナンチオマーの冬矢が足にしがみついてきた。足を振り回して引き剥がそうとするが、鏡のふちから片手が離れてしまった。
足場もついにブラックホールに吸い込まれ、崩れ落ちた。エナンチオマーを足にくっつけたまま、鏡から片手でぶら下がっているような状態では、もう振り落とす事は出来ない。
「フラーミィ、早く!」
主人が私の手首を握りしめて引っ張る。懸垂の要領で肘を曲げ、片手で体を引き上げる。
エナンチオマーはその間も私の体をよじ登り、そしてついに背中におぶさった。
「おどき、アイラ!」
紅霧がアイラを押しのけようとしたが、間に合わなかった。エナンチオマーがアイラの手を掴んで引っ張り、落としたのだ。エナンチオマーはその反動を使って自分の体を上に引き上げ、私の背中を蹴って鏡を抜けるとリアル世界に這い上った。
上へ登るエナンチオマーと入れ違うように、主人が私の横をすり抜け頭から落ちていく。黒く渦巻くブラックホールに吸い込まれていくのがスローモーションのように目に映る。
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