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「うああああああああああ!」
鏡から差し込むわずかな光で、右腕のみを影の力で無理やり伸ばす。影が引きちぎれ、黒い羽虫が飛び散りキラルの扉に吸い込まれていく。
主人をキャッチすると鏡に向かって放り投げ、私自身も鏡を抜けた時には、右腕が千々に裂け、痛みが全身を貫いた。立とうとして足がふらつき、テーブルに強く体をぶつけ床に崩れ落ちた。
背後でキンッと小さな金属音が響く。私がテーブルにぶつかった衝撃で、黒の鏡がテーブルから落ちたのだ。拾おうと手を伸ばした瞬間、痛みが襲いかかり動きが止まった。その一瞬の隙に、エナンチオマーが素早く鏡を拾って走る。
「待ちな!」
エナンチオマーの背中に紅霧が叫ぶ。腕を鞭のように伸ばし、エナンチオマーを狙う。しかしエナンチオマーは紅霧の鞭をすり抜け暖炉の上に掛けられた鏡に飛び込んだ。
主人は私の側に膝を着いていたが、逃げていくエナンチオマーになすすべもない。光るブルーアイを人差し指と中指で指差し、その指をエナンチオマーに向ける。
「逃がさないから……!」
振り返り残忍な笑みを浮かべるエナンチオマーを、紅霧の鞭が追いかけ鏡が割れた。しかしエナンチオマーの姿はすでに鏡の奥深く消え去っていて、後には粉々に砕け散った鏡の破片が、パズルのピースのようにバラバラな景色を映すのみだった。
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