『そして連続暴行事件は起こった』

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 そしてピュリュもふっと微笑みをもらすと、肩の力を抜き、奏多の顔を手で優しく包み込んだ……。 「ねえ、奏多。奏多は俺の事、気にしたことなかったかもしれないけど、俺はずっと奏多を見てた。奏多はさ、思ったことをなんでも飾らずに言ってしまうから、人とぶつかることも多いよね。それで傷つく。 ……だけど俺は奏多のそういうところ好きだよ。奏多の飾らない強さと無防備に傷ついてしまう弱さを愛してる。だけどね……、それは独りぼっちで鏡にこもっていたら失われてしまうんだ。俺、影に戻ってもずっと一緒にいる。死ぬまで。だから奏多、死なないで。長生きして。奏多が死んだら一緒にいられないから。俺ね、奏多とずーっと一緒にいたいんだ。  奏多が泣いたら一緒に泣く。怒っていたら一緒に怒るよ。俺、影だもん。奏多の思う通りに生きて。それで誰かを敵に回しても、俺は奏多の味方だ。だからなんと呼ばれようと、何を言われようと、気にするな。奏多は奏多だ。思う通りに、生きろ」  ピュリュの声が途切れ、小さくため息をつく。  「それにあいつの事……好き……なんだろ? これ、返すよ。だからあいつに返しに行けよ。一緒に行ってやるから。本当は……イヤだけど、俺、奏多の影だから、な……。どんなことだって……一緒だ」  そういうと胸に手を入れ、依り代のタオル地の青いハンカチを取り出すと奏多の手に握らせた。ピュリュは奏多の目尻から零れ落ちた涙を見ることなく、ただの影に戻った。  意識を取り戻した奏多は影の上にさらにいくつもの涙の雫を落とした。そして青いハンカチを抱きしめ帰っていったのだ。  だから奏多が自分の心に素直に生きることを願って影にもどったピュリュが、犯人であるはずがない。それに……。
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