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影の私にとっては、塩山中学校に向かう急な坂道もどうということはない。むしろ気になるのは、空気の色がオレンジがかりもう夏は終わりだと告げているのに、まだ色濃く私の姿が地面に映っていることだ。
影だけが移動していく違和感に気が付く者がいないとは限らない。人目を引かないようになるべく物陰の中を進む。そして校門の側の樹木の影に身を潜めて待っていると、計算どおりほどなく奏多が歩いてきた。
『奏多』
呼びかけると、奏多が立ち止まった。私の姿を探すようにあたりを見回す。奏多の体に昇り、耳元で『影のままでは話しにくいでしょうから、場所を変えましょう』と話しかける。
「あっ……、フラーミィ、さん」
『聞きたいことがあるのです』
「ボクも、話さないと、って」
奏多の目を雫が覆う。泣くのだろうか? 観察していると、奏多の目に浮かび上がった涙は目の奥に吸収され、白目に赤い血管を浮かび上がらせるだけで消えた。
マミの報告によれば、連続暴行事件の被害者の三人はいずれも怯えていて、気が動転しているとしか思えない供述をしているという。
三人が話す内容もバラバラだった。人間だけど人間じゃなかった、相手は一人だった、複数だった気がする、または双子だった、などと言っているらしい。唯一、三人が口を揃えているのは、これまでに会ったことのない人物だったということだけだ。
少年の供述には食い違いが大きいが、状況的には似通った点が多いため、別々の事件とは判断しにくい。警察では少年たちの供述内容が違うのは、事件のショックで記憶が曖昧になっているせいだと結論付けた。
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