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マミの糸が途切れた場所は、灰色のコンクリートのビルとビルとの狭間だった。
飲みかけのペットボトル、コンビニの惣菜が包まれていた脂っぽい紙、アスファルトにこびりついた食べ物の残骸……。
一来には全く似つかわしくない場所だ。
しおり糸の終着点に辿り着くまで時間にして三十分。もしもその三十分が失われなければ、この光景を目にしないで済んだかもしれない。
後悔は影にはそぐわない。しかし……、私はため息をもらさずにはいられない。もしも、私が万全であったなら。もしも私がしおり糸の終着点を予測出来たなら……。
もっと早くこの場所に辿り着くことが出来たはずだ。
そしてもしも、私が一来に心を寄せていなければ、こんな感情の嵐に飲み込まれることもなかっただろうに。
もしも……、その人間くさい感情が私を苛立たせる。
やっと見つけた一来は、ビルの裏口らしき階段に腰かけ、壁にもたれかかって眠っているように見えた。金曜日の夕刻だというのに、細く薄暗い路地には通る人もない。階段の四隅には砂ぼこりがたまっていて、一来の制服も埃で白くなっている。
ビルの影になっている石段には夕闇が早くも訪れ、一来の表情はよく見えない。
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