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「一来、大丈夫ですか?」
人型になり肩に触れる。ぐらり、と一来の体が傾き、私の足元に崩れ落ちてきた。慌てて手を伸ばし一来の体を支える。意識のない一来を、そっと石段に寝かせる。
血の気の失せた青白い顔が闇に浮かぶ。
「一……来……? 起きてください……」
むせかえるほど精命がきつく香っている。
エナンチオマーと冬矢の影はどれほどの血を一来に流させたのだ? 怒りが地の底から湧き上がってくる。
そして止血もせず放置したのだろう。階段に血だまりが出来ていた。
「とにかく、連れて帰らなければ」
抱きかかえた一来は腕にズシリと重く、暖かかった。よかった。生きている。ぐっと足に力を込め、飛ぼうとした。
意図せず血だまりに足を入れてしまい、ピチャッと一来の血が足にかかった。その瞬間、暴力的なほどの精命が体の内に流れ込み爆発した。力が増幅し私の欠けた影を補ってあっさりと凌駕した。嵐が巻き起こり怒りが私を飲み込んでいった。
しかしそれでも……、足元の血だまりにくっきりと残されたエナンチオマーの足跡の中に、踏みつぶされ原型を留めない姿で残されているモノに気が付いたなら、けしてその場に残していくようなことはしなかったのに。
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