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そう言って、薄っすらと目を開けたものの、重さに耐えかねるように瞼が下がり再び目を閉じてしまう。眠ったのだろうか? それならしばらく寝かせておいた方がいいのかもしれない。一来を起こさないように、ベッドサイドから立ち去ろうとしたとき、一来が私の手をつかんだ。
つむったままの目からこぼれ落ちた涙が、枕に吸い込まれた。
『どうしたのですか、一来』
私が声をかけると、主人といつかと紅霧が一斉に部屋の中に入ってきた。
「一来くん、目を覚ましたの?!」
一来は涙を腕で拭い体を起こそうとした。
「まだ起きちゃだめだよ!」
いつかが慌てて一来の肩を抑える。
「そうね、寝たままでも話せるでしょう」
主人はベッドサイドに立って一来を見下ろした。
「何から話せばいいのか……」
かすれた声で一来がつぶやく。喉が乾燥しているのか、喋りにくそうだ。
『やはり少しだけ体を起こして、水を飲みましょう』
一来の背中に手を添え、体を起こすのを手伝う。枕を縦にして、ベッドボードに立てかけると寄り掛からせた。ガラスのピッチャーに入れて持ってきた水をグラスに注ぎ、一来の口元に運ぶ。一来は自分で持とうとグラス触れると、うっと小さくうめいて痛みに顔をゆがめた。それでもグラスを持ち直すと唇を付け、ゆっくりと飲んだ。
「ありがとう」
先ほどよりはしっかりした声だ。
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