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「それで……、コロッケを一緒に食べることになって」
「私もコロッケ食べたかった」
主人が小さな声で文句を言う。
「コロッケを手渡そうとしたら、腕をつかまれて引っ張って行かれたんだ。力が強くて、とても振り払えなかった」
その時の事を思い出したのか、うつむいてイヤイヤするように首を振る。
「路地裏みたいなところに連れて行かれて、黒の鏡を見せられた。黒の鏡の中には、本体の冬矢先輩がいたんだけど、多分、すでに精命が限界近くまで流れ出てしまったらしく、瀕死の状態だったんだ」
「瀕死? 大丈夫だったの?」
「見ただけで、ヤバイってこと、分かるもんなんだね。冬矢先輩、うつろな目で倒れてて。口からよだれを垂れ流していた。何も感じていないような状態なのに、目からは涙が細く絶え間なくこぼれているんだ。拭きもせずに涙が流れ続けたせいで、目尻のあたりの涙の通り道が赤くただれていた」
そこでひと呼吸おいて、静かに続けた。
「それでもう鏡に血を提供しないって言う約束、破ってしまった。その時、いつかちゃんから電話が来たんだけど、なんて言っていいのか分からなくて、切っちゃったんだ……ごめん」
「仕方ないよ、見殺しになんて出来ないし」
「それはもういいわよ。だけど自分がこんなになるまで血をあげることないじゃないっ!」
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