263人が本棚に入れています
本棚に追加
「マミっていうのは、あのちっちゃな蜘蛛のことだね。なぜ、死んだんだい?」
マミとの交流がない紅霧が、口火を切るのは自然なことだった。
誰もが一来の話を嘘だと疑って望みをかけることは無駄だと知っていた。そして悲しみを口にすれば、一来を責めることになることも知っていた。
そして何よりも自分の胸の中で暴れ回る感情を抑え込むので精一杯だったのだ。
「……黒の鏡に血を入れると、冬矢先輩はすぐに回復した。真っ白だった顔に血の気が戻り、呼吸が安定して。流れ続けていた涎も止まった。
でもそれまでに精命をかなり失っていたせいなのか、意識は戻らずそのまま眠りこんでいたけど。
その時、姿を隠していたエナンチオマーが笑いながら姿を表したんだ。これで黒の精命を貯められる、って笑い転げていた。そして僕からナイフを奪って振りあげた。
……切られるって思った時、マミが突然どこからか飛んで来て、エナンチオマーの顔に飛びかかったんだ」
「マミちゃん、すごい……」
マミの死を一瞬忘れて、いつかが声をあげ、すぐに「あ……」と口を抑える。
「うん。マミは、すごかったよ。エナンチオマーの目の中に飛び込んだんだ。だけどはたき落とされて、地面に落ちたところを、思い切り踏みつけられた。それからエナンチオマーは足を踏みにじった。あいつらが去った後、マミを見たら原型も」
「やめて! それ以上聞かなくても分かるよ……」
「うん……、ごめん」
最初のコメントを投稿しよう!