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そういえば一来が倒れていた場所には、血だまりがあった。
『一来、もしかして……、死んだマミの体に』
「言わないで、フラーミィ。そんなこと結局、無駄だったんだから」
一来は私の言葉を遮ったが、一来が倒れていた時にあった血だまりは、死んだマミの上に、何とかならないかと一来が精名を与えた名残だったのだろう。
鏡に血を落としすでに血を失っている状態のところに、さらにマミに血を与え続けたので、貧血を起こして意識を失ったのだ。
「……たかが虫一匹、というつもりはないけどね。エナンチオマーと影に狙われて、一来が無事だったんだ。それだけでも儲けものさ。マミは一来を守ったんだ。よくやったと褒めておやりよ」
「そう……だよね、一来君を守ったんだよね、マミちゃんは」
いつかは自分を納得させるように何度も頭を縦に振って、紅霧の言葉を飲み込もうとしたが、唇を震わせながら涙をぬぐう手はいつまでも止まらなかった。
主人はいつかに歩み寄り、黙って抱きしめた。こらえきれない涙が主人の大きな瞳を満たし、あふれて流れ落ちる。肩も振るわせず音もなく、涙だけが流れ落ちていく。
「アイラちゃん……」
「エナンチオマーを倒そう。ね、いつか。誓おう。私達は負けない。冬矢を取り戻しおばあちゃんを守る」
いつかの肩はまだ震えていたが、それでもしっかりとうなずいた。一来も手が白くなるほど力をいれて布団を握りしめ顔をあげた。
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