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紅霧はしばらく三人の様子を見ていたが、目を数回しばたくと、パンッと手のひらを合わせた。
「さあっ。現状を検討しようじゃないか。あの小っちゃなクモの弔い合戦をするんだろう?」
紅霧の言う通りだった。哀しんでいる人間に鞭を入れて走らせるような真似はしたくはないが、今は哀しみ以外に気持ちを向けなければならない時なのだ。
声を発しようとしたとき、「あの小っちゃいクモ……」という紅霧の言葉が耳に蘇り、マミ、と声に出さずに名を呼んでいた。
くるくると色を変える丸い目が、もう見返して来ることはないのだと思うと、キシリ、と胸が音を立てた。
ゆっくりと目を閉じ、胸のきしみを封印する。私は影だ。影が悲しみにとらわれてどうするのだ。
そして再び目を開けた時には、やるべき事をなす準備が調っていた。
エナンチオマーを倒すのだ。
『皆さん。冬夜の影とエナンチオマーが一来の精命を奪いに来たのですから、黒いマナはまだ充分には溜まっていないのでしょう。エナンチオマーと冬矢の影は、奏多をいじめていた人物を襲うことで、奏多の復讐をとげ、黒いマナを貯めようとしています。
すでに影に襲われた三人は、奏多に聞いたところによると、彌羽学園の文化祭に来ていた人物です。奏多に連絡を取り、次に襲われるターゲットを特定しましょう』
「いつか、奏多に連絡取れる?」
「うん。スマホで連絡してみるよ」
いつかは涙を拭うと、スマートフォンを取り出してまだ震えている指でメッセージを送った。
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