腹が減っては

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腹が減っては

 やはり鍋は大人数で食べるに限る。  主人と一来、いつか、紅霧、ボストンバッグを抱えて先ほどやってきた奏多が、テーブルを囲んでいる。  出来上がった鍋をテーブルの真ん中に置き、もったいぶってから蓋をぱっとあけると、「わあ!」「すごくきれい!」「お店みたいだ!」と湯気と共に歓声があがる。  私は具材が一人一人に行き渡るよう、真っ白い磁器製の洋風の土鍋から、とんすいという器に一人分ずつ盛り付けた。耳が付いた小鉢は同じく磁器製で肌触りがよく、白地にネイビーブルーで北欧風の柄が描いてある。    シンプルな白い土鍋には、白菜と豚肉を交互に重ねたものを断面を見せるように敷き詰め、肉団子、しめじやエリンギなどのキノコ類、豆腐や水菜、薄いリボンのようにスライスした人参などを彩りよく並べた。  急ごしらえのため、鍋の具は特別な材料が入っている訳ではないが、その上に鍋を覆うようにこんもりと大根おろしを盛って目を楽しませる。我ながらなかなかの出来栄えだ。  気分が落ち込んでいるとき、人間は温かいものを食べた方がよいのだ。悲しみは体を冷やす。お腹の中が温まれば元気が出て来るはずだ。
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