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「我慢していたけれど、ある時、『あんまりガツガツするなよ』って言われて、カチンと来た。それから『お前が勝つと応援に行かないといけなくなるから、負けたっていいじゃないか』って。
ボクも『負けろって言っているのか』って言い返して、ケンカになった。今なら……ボクももう少し違ういい方もできたかもしれないし、あいつらの言葉も無理しすぎるなよ、っていう助言という風にも考えられたかもしれないけど」
「……さあ、ほら、暖かいうちに食べなよ」
紅霧がまだ充分に熱い鍋から、とりどりの具を奏多のとんすいによそう。ふたたび湯気が立ち上った器を手渡された奏多は、頭をちょんと下げると、ため息のような言葉を吐き出した。
「その時あいつがキズトンって言ったんだ。
そしたら次の日から皆にキズトンと呼ばれるようになった。広がるのはあっという間。ほとんどの人にはボクをキズトンと呼ぶ理由はなにもなかったと思うけど、みんながキズトンって言うからみんな言う。……仇名が広まっていって、いつの間にか、いじめられているみたいな状況になってたんだ」
「あんたは悪くないよ」
「そう。ボクは悪くない、ってボクだって思う。だけど嵐が吹き荒れた」
「だから私がやっつけてやるって言ったのに」
紅霧が言うと、奏多は笑い出した。
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