桐子の計画

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桐子の計画

 「紅……、紅や……」  人間達が寝静まった頃、かすかな声が聞こえてきた。私達影は完全に眠ることはない。そして浅いまどろみは、かすかな物音でも破れ、完全に覚醒する。  気が付かなかったふりをしていると、紅霧が動き出す気配がした。そしてアイラの枕元から、白の鏡を手に取ると覗き込み、鏡の中に向かってうなずいた。鏡を手にしたままそっと立ち上がる。扉を開けるとキイ、とかすかにきしんだ。紅霧は顔をしかめたが、手にしている鏡は実体なので影となって隙間をすり抜けることはできず、扉を開けざるを得ない。  私は影になり、闇にまぎれて後を追う。  紅霧の紺色のワンピースは闇に沈んでいるが、白い襟が蝶が飛んでいるように廊下を進んでいく。紅霧が誰も使っていない部屋に吸い込まれるのを確認すると、私もすばやく部屋に入り込んで身を潜めた。  曇っているのか、月明かりさえ差し込まない暗い室内から声だけが低く響いてくる。  「桐子。どうしたのさ……」  「紅、いいかい。よく聞いて。エナンチオマーは油断できない相手だということはわかっているね?」  「うん。だけど、桐子を鏡から追い出すようなことは私の真名にかけてさせないから、心配いらないよ」  「フラーミィ、そこにいるね?」  気配を消していたつもりだったが、気が付かれていたならば仕方ない。人型となり、鏡の側へ寄る。
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