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「浅葱先生に送ってもらえないかな?」
いつかは主人の文句は聞き流して、自分の質問に自分で質問を重ねる。それから眉をひそめて「もう寝ているよね。むりかな…」と首を傾げた。
『浅葱先生なら、冬矢の家の住所も知っているでしょう。いい考えですが、浅葱先生のご自宅は、遠いので迎えに来てもらうと遅くなってしまいます』
「仕方ないわね。フラーミィ、ママは帰ってきているよね?」
「ねえ、アイラちゃん。お母さんも事情を知っているの?」
「今回の暴行事件については心配するから話していないけど、昔からおばあちゃんも影を使役していたし、フラーミィは家では人型だし。
なによりトラブルがあったら、寄り添い助けよ、っていうのがウィスハートの家訓だから大丈夫。そういう訳だから、いつかは浅葱先生を叩き起こして、冬矢の家の住所を聞いておいて」と、主人は一方的に命令すると、返事も待たずに部屋を出て行った。
主人の母上は、寝入りばなを起こされたにも関わらず、あらましの事情を聞いただけで車を出すことを承知した。手早くパジャマの上にカーディガンを羽織り、厚手の靴下を履くと、黒のワンボックスカーのエンジンをかける。
車の窓から見る夜の景色は、昼間とは違って見える。流れて去る街灯や建物の灯りがたなびいて、初めて来る街のような顔をしている。水滴が窓にぶつかってきた。雨が降ってきたのだ。ワイパーが水滴を払うが、急に強まった雨脚が視界を奪っていく。
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