誕生日には黒い薔薇を

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 識里の影は、足早にエレベーター前に移動し、上向きの三角のマークの付いたボタンを押す。扉にぶつかりそうな位置に立っているのは、私たちを視界に入れないようにしているのだろう。  主人は何も聞かなかったように、識里の影の隣に立つ。エレベーターの扉を見張っている防犯カメラには、まるで友達の家に遊びに来ました、というように映っているはずだ。  「ちょっと、なんなの? 帰りなさいよ」  識里の影が主人の方を向いて抗議の声をあげるのと同時に、チン、と軽い音がして扉があく。  私は軽く識里の影の背中を後ろから押した。扉ギリギリに立っていたので、トントン、とよろめいた二歩でエレベーターの中に乗り込ませることにあっさりと成功した。  主人は後からゆっくりと乗り込んでくると「何階ですか?」とエレベーターガールのように聞く。  「四階です」さらに後ろから乗り込んで来た一来が答える。「さっき入力していたの、部屋番号だよね」  一来、なかなか使える奴だ。私は感心して、一来の肩を叩いた。  高速エレベーターなのだろう。すぐにチン、と軽い音がして四階に到着する。動こうとしない識里の影の腕を掴み、三人で取り囲んで部屋に連れて行く。  「ここも手のひら認証だね」     
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