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「くっそー! 嘘つき! 私の精命を返せ!」
識里の影が紅霧につかみかかった。影なのでアイラよりは素早い動きだったが、紅霧にあっさりとつかまってしまった。
『皆さん、なぜこうも直球なのでしょう……』
額に指先をあて、首を振る。
鏡を奪うだけでなく、助ける対象が出来てしまったのは厄介だ。
天井から真っ直ぐに落ちて、紅霧の目の前に立つ。紅霧がまばたきをした瞬間に、識里の影の首に回された腕をつかむ。
目の端に鋭く影が走った。一、二、三……おそらく五枚程度か。平べったく先がとがった影が、手裏剣のように空気を切り裂き、紅霧に襲いかかった。
一枚が紅霧の頬をかすめ、識里の首に回していた手から力が抜けた。その瞬間を逃さず紅霧の腕を引きはがし、反対の手で識里を引きよせて床に放り投げる。
「危ない、危ない。面倒だからアタシは退散するよ。この子はもういらないから、好きにすればいいさ」
紅霧は鏡に手を突っこみ、眠っているような識里いつかを引っ張り出すと、床に投げ捨てた。そして影に戻るとかさついた笑い声を残して、窓からヌルリと出て行った。
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