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「そんなことより、識里いつかさんだろ」一来が識里の本体の肩に手をあてて、覗き込んでいる。「このままだと、どうなるんだ?」
「そうね、どうなるの、フラーミィ?」
主人も知らないのは無理はない。一度も聞かれたことがなかったら、話したことはなかった。同じように鏡に閉じ込められている主人の祖母、桐子についても。
『鏡に人を閉じ込め、影に依り代を埋め込むと、本体と繋がる道を作ることが出来るようになります。
影は人型となって、自由に動き回ることが出来るようになりますが、影は影です。
桐子はアイラと同じで精命が破格の量ですから、何年間も精命を影に流し込んでいても、時折目を覚ますこともありますし、命を保つことも出来ています。
しかし識里いつかは普通の人間ですから、影が動き回れるほどの精命を流し込んだら、意識を保つことはできないのでしょう。間もなく肉体も保たなくなるでしょうね』
「鏡から出たら、戻るんじゃないの?」
一来が識里いつかの背中をさすりながら言う。ぐったりと横たわっているいつかは、先ほどよりも顔色が悪くなったようだ。
私は首を振った。知っているのはこれだけなのだ。
「……鏡から出ても……、私が影に戻らない限り、精命は流れでてしまうの……」
識里の影が言った。いつの間にかすすり泣く力もなくなってしまったのか、倒れている識里いつかに寄りかかるようにして、何とか座った姿勢を保っている。
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