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『そして鏡から人間が出てしまったので、本体と影を繋ぐ道も失われてしまったようですね』
精命が流れ込まなくなったので、影も急速に弱っていっているのだ。
「いつかは……、ギタリストの布川虎のファンなの。コンサートのチケット、やっと取れて……。
だからどうしても、布川虎がいつも付けているブラック&ローズのアクセサリーを付けてコンサートに行きたかった。諦めようとしたけど……、以前のコンサートの画像みると、ファンの子達は皆ブラック&ローズのアクセサリーを耳にも首にも手首にも、付けていて。でもチケットを買ってしまったから、アクセサリーを買うお金はなかった」
「分かるよ……」
一来は識里の影を見つめている。
「分か、る……?」
「分かるよ、当たり前だよ。僕だって、せっかくファンの人のコンサートのチケット手に入れたら、ファッションも決めたいって思うよ?」
「……でもね……盗りたいって、いつかは思ったの。胸の中で黒い鳥が羽根をだんだん広げていくみたいだった。その時、紅霧の声がしたの」
「かぁごめ、かごめ……。白い精命と黒い精命をいっぱいに、表と裏を見合わせりゃ、籠の中の鳥と影とが入れ替わる……」
アイラが歌うように言った。識里の影はビクリと体を震わせた。そして小刻みに何回も首をコクコクと縦にふって、震えるように頷いた。
「そう。紅霧はそう言った……」
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