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『アイラ、その言葉はなんですか?』
「鏡の中のおばあちゃんが、昔言っていたの。それなあに? って聞いたら、いいから覚えておおき、って言われたわ」
「いつかを鏡に閉じ込めて、その間に私がアクセサリーを盗み、欲望を満たすと精命が黒く染まる。黒く染まった精命が鏡を満たした時、表の鏡と裏の鏡を合わせると、人と影は入れ替わることが出来る、そう言われたわ。私、ヒトになりたかった……」
ふーっと識里の影は深く息を吐いた。グラリと体がかしぐ。一来が手を伸ばしてその体を支える。その体は黒く透けてきていた。
「さあ、もう気が済んだでしょ。欲しいと思うのと盗むのとでは全然違う、そう思ったんでしょ。だったらさっさと戻ってきて、入れ替わりなさいよ」
主人が話はもう終わりだ、というように早口で言った。識里の影は口元に笑みを浮かべて首を振った。
識里いつかの体から精命がキラキラと光の粒になって体からどんどん抜けていく。
(とても美味しそうですね。ですが、口を開けて吸い込んだら、主人に張り飛ばされそうなので、やめておきましょう)
私は舌なめずりをするのをこらえた。
『おや……、消えようとしていますね……』
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