『モンスターは突然に』

1/6
前へ
/311ページ
次へ

『モンスターは突然に』

 彌羽(みわ)学園の職員室には、壁がない。  いや、壁はあるのだが、廊下と職員室を隔てている壁は腰の高さほどで、その上はガラス張りになっているのだ。職員室の敷居を下げ、親しみやすくする目的だそうだが、教師は常に廊下からの視線にさらされることになる。  つまり居留守はつかえないということだ。どんなに嫌な客が来たとしても。  「ですから、今からクラス替えをするなんて……。もう一学期が始まっていますし…」  男性教師の悲鳴のような声が廊下に漏れてくる。男性にしては高めの声だ。  「一学期前だったらよかったってことですか?! それならどうしてお知らせしてくださらなかったんですか! プリント一枚で済むことでしょう」  女性にしてはドスの効いた……、失礼。迫力のある力強い声が反論する。  「いえ、クラス編成は学校が行うもので、ご意向に沿って行うものでは……。おわかりいただけると思うんですけど」  弱々しく懇願するような説明は、しかし逆効果だったようだ。  「おわかりいただけると思いますけど、ですって? それは、わからない私が悪いとおっしゃっているんですよね?!」
/311ページ

最初のコメントを投稿しよう!

262人が本棚に入れています
本棚に追加