『密談はファミレスで』

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 (おや?)いつかのマナが口の中ではじけ、一瞬、目の前のケーキやタルトといった甘い宝石たちから意識がそれる。いつかの髪のマナは意外にも多いようだ。紅霧がいつかをターゲットにした理由は、単にいつかの心が揺れていたからというだけではないらしい。しかし……人工的な香り、おそらく整髪剤だろう……が精命(まな)の味を(そこ)なっているのが残念だ。  「まあまあ。アイラちゃん。じゃあそろそろ話を聞いてくれる?」髪を抜かれた当人がちびアイラをかばいつつ、切り出した。  「そうだよ、アイラ。好きなだけ注文していいって言われたからって、食べきれないほどデザートを注文したんだから、聞いてあげないと」  一来も加勢する。  主人は黙って季節のフルーツタルトの上に乗っていたイチゴに、フォークを突き刺した。  「あれ? アイラちゃん、髪に何か……」いつかがアイラの頭に手を伸ばしたが、空中で行き先を見失ってさまよわせる。「く、蜘蛛……」と助けを求めるように一来を振り返った。  主人が自分の頭に手を乗せると、蜘蛛が八本の足を滑らかに動かして手の甲に乗ってきた。蜘蛛を落とさないように、ゆっくりと顔の前に手を下ろすと、「ああ、さっきの。ついてきちゃったのね。ご苦労様」と言って、一来やいつかが見たことのないような笑顔で笑いかける。 「ありがとう。さ、もうお帰り」 人差し指で蜘蛛を撫でた。そして掌に蜘蛛を落とし込み空気と一緒に握ると席を立った。店外に逃がしに行ったのだろう。     
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