『密談はファミレスで』

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 「アイラちゃん、蜘蛛、怖くないの?」テーブルに戻ってきたアイラにいつかが聞く。「虫、私は苦手なんだよね」と、首を激しく横にふりながら付け加える。    「あの子は使い魔を貸してくれたのよ。怖い訳ないじゃない」  どうやら先ほどモンスターママに放ったのは、あの蜘蛛の影だったようだ。小さな生き物は影の影響を受けやすいだろうか? あの蜘蛛は本体も主人に懐いてしまったようだ。  「あの子だって私のことが好きなのよ。すぐにわかったわ!」と優しい眼差しを窓の外に向ける。フォークに刺さったままになっていたイチゴを口に放り込むと威勢よくかみ砕く。そしていつかに向き直ると「それで?」と言った。  何を言われているのかわからないいつかは、眉をひそめてアイラを見つめ返した。   「いつかのお願いを言ってみたら? っていうことみたい」  無言で考え込むいつかに、アイラの言葉を小鳥のさえずりのような声で通訳する。  「あ、ああ。言っていいのね?」いつかは小さな声で私に確認を取る。頷いてみせると、息を吸い込み、突然、叫んだ。  「私とバンドを組んで、文化祭の後夜祭で歌ってください!」  と、勢いよく頭を下げる。テーブルにオデコがぶつかり、食器が跳ねた。そのままの姿勢で返事を待つ。    「いつかちゃんは軽音部だったよね」  続く沈黙に耐えかねて、一来がアイラに押し付けられたブリュレパフェから顔をあげて確認する。  彌羽(みわ)学園には大きな講堂があり、文化祭では様々な部活動がステージで発表を行うのだが、軽音部は後夜祭でライブをするということなのだろう。     
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