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ゴスメが道徳よりも哀しみや暗黒の美意識を優先させるので、生真面目な気質の日本人には受け入れにくかったのだろう。しかしその状況一変させたのが、Death C r o wなのだ。
Death C r o wは、その名の通り鴉のような真っ黒な衣装に身を包み、西洋の墓地をモチーフにした舞台のようなセットで、独特の世界観を創り出した。
ボーカルの火野は男性とは思えないような高く力強い高音のミックスボイスで、悲哀に満ちた歌詞を切なく歌い上げ、デビューすると同時に一気にメジャーなバンドに駆け上がったのだ。
「府川虎は別に好きじゃないけど。……ええっと……、Death C r o wの歌を演るってことなの?」
「そう! そうなのよ。私がギターを弾くから、アイラちゃんが歌ってくれたらビジュアルも百人力! お願いぃ」
主人は黙って、小さなグラスに入ったパンナコッタをスプーンですくって口に運んだ。いつかが黙って返事を待つ間に、グラスは空っぽになっていく。
考え事をしながら、食べているので何を食べているのか分かっていないだろう。もったいない。私もパンナコッタを試食させていただきたいので、抹茶シフォンのお皿とすり替える。
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