『密談はファミレスで』

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 いつかは主人の組んだ腕を引っこ抜いて両手で握り、上下に揺さぶった。  「お、おおげさねぇ。」湧き上がる笑みを隠そうとして、主人の唇がとがる。とがった口元を隠そうとして、顎を上げ、上からいつかを見下ろす「ツン」な顔で続けた。「……だけど条件があるわ」    「なに? なんでも言って! またファミレスのデザート食べ放題? それとも焼肉食べ放題? 思い切ってホテルのブッフェ? ええっと、それとも……」  いつかが主人の手を握りしめたまま聞く。  「ちょっと! なんで食べ放題ばかりなのよ。そうじゃないわよ。あのね……ええっと……」  主人が言いよどむのは珍しい、と考えつつ、私は小さな白い壺を手に持って、ソファに膝立ちになった。そして自家製パンケーキに、白い壺に入ったメープルシロップを皿の二十センチほど上から糸を細くひかせて、まんべんなくかける。小さな白いミルクピッチャーから、黄金色の液体が光を放ちながら、流れ落ちる様は美しく心躍る光景だ。隣の席でこんなに面白い出来事が繰り広げられていなかったら、倍の時間をかけてメープルシロップをかけるところだ。  メープルシロップの入っていた小さなピッチャーをテーブルに置きながら、横目で様子を観察する。     
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