『密談はファミレスで』

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 「なになに?」いつかはアイラの手を握ったまま、目を輝かせて聞く。  「Death C r o wの曲に、私が作った歌詞を付けて歌ってもいいなら……いいわよ?」  主人が視線を宙にさまよわせながら、口調だけは強気に言う。  「替え歌ってことか?」  一来が口を挟んだ。  「替え歌っていうとちょっと……かなりグレードダウンするイメージだけど……まあ、そうよ」  言いにくいことを言ってすっきりしたのか、アイラはふてぶてしさを取り戻して勢いよくソファに寄り掛かった。その衝撃でソファが揺れ、膝立ちになっていた私はグラリと体が(かし)いでしまった。横目で睨んだが、主人は腕を組んで、挑むような探るような、そしてけし粒ひとつ分程の心配を含んだ目で、いつかを見ていて全く気が付かない。  テーブル越しに主人の手をにぎっていたいつかは、前に引っ張られてテーブルにお腹をぶつけてしまい「痛っ」と悲鳴をあげていた。お腹をさすりつつ、めげずに「オリジナル歌詞っていうことだね? いいよいいよ!」と即答する。しかし、「でも……」と真剣な顔で眉をぎゅっと寄せた。  「一つ問題があるの」ぐるりと瞳を上に回す。「いや、やっぱりあと二つ、かな……?」    そして肩をすくめてテーブルに座っている面々を見渡すと、眉をひそめて笑うという芸当を披露した。
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