フラーミィと一緒

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 陽が落ち消灯されてしまうと、彌羽(みわ)学園の旧校舎は街灯が照らしている外よりも暗い。  他の部活は新校舎に部室があるため、オーケストラ部が使用していない楽器を置いている他には、軽音部しか旧校舎を使用していない。そのため掃除が行き届かず、天井にはところどころに蜘蛛の巣が張り、あちこちの壁にはヒビが入っている。  少々不気味な雰囲気ではあるが、本物の幽霊などがいないことは私には明白だ。しかし面白いのでそれを一来に教えるつもりはない。  『おや。何か聞こえますね……』  「やめてよーっ! フラーミィ。脅かさないでよ」  一来の腰はますます引けて首もすくめて、腕にきつくしがみ付いてくる。私の胸の高さに頭があり、髪から一来の精命(まな)の香りがする。先日の甘美なマナの味を思いだし舌で唇を舐める。いやいや、一来の血以外の精命は微々たるもので味気なかったではないか……、と気持ちをいさめる。  一来の腕を軽く引くようにして歩を進めていくと、今度ははっきりとした声が聞こえてきた。  「お願いしましたよねえ? どうなっているんですか?」  「……それはちょっと……あの……」  『浅葱先生とやらの声ですね』  「また来てるんだ、あのモンスターママ。このところ、しょっちゅう来るんだよ」  一来はへっぴり腰のまま、新校舎に足を向けた。何をするつもりかは分からないが、闇を怖がっているのに助太刀に行こうしているのは、なかなか侠気(おとこぎ)のある行動と言えるだろう。  「ちょっとフラーミィ! 帰らないの?」  一来と一緒に新校舎へ行こうとすると、主人に引き留められた。     
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