フラーミィと一緒

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 『一来に腕を取られているので、仕方がないのです』と言い訳をする。本当は面白そうだから見に行こうとしていたのだが。  「引き剥がせばいいじゃないの」  主人の言葉に、いつかも隣で頷いている。二人とも早く帰りたいのだろう。  「それなら! 言わせてもらうけど、この前のファミリーレストランで足りないお金を支払ったのは誰? 僕でしょうが!」  いつかが(くび)をすくめた。  「ごめんごめん。だっていくらなんでも、あんなに頼むとは思わなかったから……。それにDeath Crowのヴォーカルの火野(ひの)様は、めったにオフィシャルグッズ発売しないから貴重なの。絶対すぐに売り切れちゃうし……」  お金が足りなかった。これがファミリーレストランでいつかが問題が二つある、と言っていたうちの一つ目だった。  「買っちゃったから、お金がなかったと」  眼鏡の奥で一来の目が光る。  「ま、まあまあまあまあ」  いつかは両手を胸の前に上げて、降参した。  「一緒に行くから。ねっ? 」  「私は帰る」  二人のやり取りを見ていた主人は、首を一回すくめ、生徒用の通用門に足を向けた。  「ちょっと待って、アイラ!」一来はすばやく主人に矛先を向ける。「僕はドラムなんかやったことないからって断ったのに、アイラが無理やりやらせているんだろ?」  これが問題の二つ目だ。バンドを組むなら、少なくともヴォーカル、ギター、ベース、ドラムは必要だ。ヴォーカルはアイラ、ギターはいつかと決まっているが、ベースとドラムがいない。
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