フラーミィと一緒

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 『承知いたしました』  いつかの指示通り、思うがまま叩く。  私に後ろから抱きかかえるような格好で、一緒にドラムを叩いている一来は、私がドラムを叩くたびに腕をあちらこちらに引っ張られ、足元にあるペダルを踏むたび、両足も私に踏まれている。  「なんで男にバックハグされなきゃいけないんだよ」  一来の抗議は聞き流して、一来のマナの香りを吸い込む。とてもいい香りだが……、連日手も足も容赦なく引っ張られ、踏まれているせいで、体中が痛むのか、マナの香りに交じって湿布の匂いがするのが残念だ。 「だって一来は一人でドラム叩けないんだから、仕方ないじゃない」と主人が答えると、「うん、仕方ない」とすかさずいつかが同意した。  『私は楽しいですよ。後ろから抱きついて一来の手を取り、一緒にドラムを叩く……。激しく叩けば叩く程、一来の精命の香りが立ちのぼってかぐわしいですしね。時々血をいただきたくなる……』  精命の香りを思いだして唇を舐める。  「お行儀が悪いわよ、フラーミィ!」  目ざとい主人に気が付かれてしまった。主人は私をひとにらみすると、大げさにため息をついて言った。  「仕方ないわね。一緒に行けばいいんでしょ……!」  主人は一来の方にわざわざ近寄ると、「さ、行くわよ」と声をかけ、勢いよく(きびす)をかえした。主人のツインテールが風を切り、一来の額をぴしゃりと打った。   「(いて)っ」  いつもなら頬にヒットするのだが、一来が暗闇におびえて腰が引けていたせいで、頭の位置が低かったのだろう。     
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