フラーミィと一緒

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 その時、背後から吹き込んできた風に、かすかなクチナシの香りを感じた。紅霧がいる……。香りが漂ってきた方をゆっくりと振り返り、主人と背中合わせになるように体を反転させて立つ。  モンスターママに気をとられている三人は、香りに気がついていない。浅葱先生とモンスターママのやり取りに、主人の苛立ちと怒りが増幅していく。主人の精命が沸騰して立ちのぼり、闇の中でプラズマのように体を取り巻く。  主人の精命をシャワーの飛沫のように浴びて、力がみなぎり金色の瞳が光る。人差し指を唇にあて思案しつつ、ゆっくりと香りの主、紅霧に歩み寄る。  『さて。どうしたものでしょう……?』  「おお、怖い。剣呑(けんのん)だねえ。まだなぁんにもしてないじゃないか」  紅霧は真っ赤に濡れた唇を横に大きく引き伸ばし、面白そうに言った。  白いうなじから一番上の背骨までが、襟からのぞいている。襟が大きく開いたオフショルダーの黒いワンピースを着ているのだ。  エンジェルトランペットという花のように広がった袖口で口元をかくし、クスクスと笑うと、  「今日は面白い物も見られたし、あたしはこれで退散することにするよ」  というと、一瞬で影に戻り窓からするりと出て行った。瞬間、(すそ)がひるがえり、ワンピースの中に着ている赤いペチコートが闇に揺れて、影に消えた。     
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