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「浅葱先生!」
一来の声で、皆の方に向き直る。一来といつかが足音をたてて男性教師に駆け寄っていた。
「大丈夫ですか?」
とうとう腹を押さえてうずくまってしまった教師の側に、いつかが座りこむ。
モンスターママは、ジリジリと後ずさりすると「じゃあ、私はこれで……」と口の中でもごもごと言って、小走りに去ってしまった。男性教師の急な体調不良が自分のせいだと発覚するのを恐れて逃げ出したのだろう。
「先生! 先生っ……!」
一来が呼びかけると、浅葱先生は顔を上げたが、血の気のない顔色なのに汗が額ににじんでいた。
「大丈夫だ。 さあ、帰ってチイにご飯をやらないと」
浅葱先生は力のない声を絞り出した。
「チイって、誰ですか? お子さんいらっしゃいましたっけ? あ、じゃあ家に電話して迎えに来てもらったら」
一来は浅葱先生に早口で話しかけながら、いつの間に取り出したのか、手に持ったスマートフォンを起動させた。
「先生、家か奥さんのスマホの番号、言ってください」
「一人暮らしだから……」
「えっ?! じゃあチイっていうのは」
「……リクガメ。飼っているカメの名前なんだ」
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