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思わず吹きだした主人を無視して、「じゃあ、送っていきますね」と一来はスマートフォンを鞄に仕舞った。浅葱先生はなんとか立ち上がると、首を振った。ズレた銀縁の眼鏡を片手で押さえて直し、何度か息を大きくつくと一来の肩を二回叩いた。
「少し休めば大丈夫だから。君たちはもう帰りなさい。もう最終下校時刻、とっくにすぎているだろう」
一来といつかが何か言おうとするのを手で制し、大丈夫、と示すように、職員室へゆっくりと歩いて行った。細い肩が歩くたびに左右に揺れる。体を真っすぐに保つ力も残っていないのだろう。
「先生、痩せたみたい……」いつかの声が暗い廊下に吸い込まれていった。
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