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いつかが転がった画鋲を追いかけた。一来も慌ててしゃがんで、ピンを拾い集めた。すると今度は腕に抱えたポスターが崩れそうになる。
「痛っ」
画鋲の針が一来の指に刺さった。ポスターに気を取られたせいだろう。
血が滲みでるのと一緒に精命の香りが立ち上る。そのかぐわしい香りに吸い寄せられるように、私は影のまま体を伸ばして一来の指に近づいた。
「フラーミィ! お行儀が悪いわよ!」
「フラーミィ! ジャスミンが香ってるから!」
主人と一来の声が重なって響いた。見つかってしまった。そして一来は私に血を舐められないように、そそくさと指をポスターでこすって拭き取ってしまった。もったいない。
「あぁっ、枚数に余分がないのに」いつかが文句を言う。
私が舐めていれば、ポスターが汚れることもなかったものを。もったいない、と見つめる私の視線から逃げるように一来は走り去り「ごめんごめん。じゃあ、貼ってくるからー!」という声だけが、遠くから戻ってきた。
「さて。じゃあ私たちは浅葱先生の所に行きますか!」
と、いつかが言う。どちらかといえば、まだほのかに血の香りを残している一来に付いて行きたかったが仕方がない。
職員室に入ると浅葱先生がすぐに気が付き、「やあ、待っていたよ」と言って手招きした。あらかじめ約束を取り付けていたのだろう。
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