ライブ前

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 いつかと浅葱先生は音響設備について頭を突き合わせ、楽しそうに話しているが、音響システムについて全く知らない主人は、退屈そうに窓の外を眺めている。すると何か面白いものでも見つけたのか、ふいに背すじをのばして、窓の方へ体を乗り出した。興味を引かれて、私も窓の外を見てみる。  (おや。これは面白くなりそうだ)   「照明を後ろからあてて、ドラムはシルエットにしたいんですけど」いつかは浅葱先生に話し続けている。浅葱先生も熱心に頷きながら、相づちをうつ……。  急に荒々しい足音と共に地響きがした、と思ったら、ガラリとがさつな音をたてて、職員室のドアが開けられた。  「失礼します」  モンスターママだ。いつかは振り返って顔を強ばらせると黙り込んだ。  「なんでしょうか? 今、生徒と面談中なので、廊下でお待ちください」  浅葱先生がきっぱりと言ったので、いつかは驚いて浅葱先生の顔を見つめた。主人は皮肉な笑みを浮かべて、やや離れた位置から様子を眺めている。    モンスターママは驚いた様子で、口をつぐんだ。しかしそれで引くようなモンスターママではない。  「至急の要件なんです!」と言いながら、いつかを押しのけるように前に出る。  「せ、先生……、私達はその……また後でも……」モンスターママの迫力に負けて、いつかが口を開いた。「いいえ。順番は守っていただきます。生徒に危険が及んでいる場合は別ですけど、そういう訳ではないですよね?」  浅葱先生が重ねて断る。     
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