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「大丈夫ですか?」
いつかが差し伸べた手を無視して、モンスターママは無言で立ち上がると、勢いよく職員室の中に突進していった。
『アイラ、ちょっと見てきてもよろしいですか?』
「構わないわよ。だけど私は先に帰っている。行くわよ、いつか」
いつかは私を見つめ両手を合わせて(浅葱先生を頼んだよ)と、口パクで頼むと、主人を追いかけて行った。
さて。ぴったりと閉じているように見えるドアにも、影が通り抜ける隙間位はあるものだ。私は職員室に難なく侵入すると、天井に張りつき、浅葱先生とモンスターママの対決を見学することにした。
生徒も他の先生たちは、もう帰宅したのだろう。誰もいない。職員室には二人だけだ。浅葱先生は、椅子にゆったりと腰かけ長い足を組んでいた。
モンスターママはいつもと違う浅葱先生の態度に落ち着かないのか、椅子の上で体をもぞもぞと動かし、おしりが落ち着く場所を探していた。
「お子さんの成績が足りないのは、テストの点数が悪いからです」
「ですから、うるさい生徒さんがいるからでしょ? 集中出来れば、ちゃんと……」
「申し訳ありませんが」
「寄付金を打ち切りますよ。校長に明日お会いして、浅葱先生の態度についても抗議します!」
浅葱先生は海の中で海藻が揺れるように、ゆらあり、と立ち上がった。
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