予報は、嵐

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予報は、嵐

 文化祭は好天にめぐまれた。  しかし天気に恵まれた事を差し引いても、異常なほどの混雑ぶりだ。外部の来客数が少なくとも、昨年の二倍あるいは三倍は来ているのでは、とあちこちで囁かれているのを耳にした。  「お客さんが多いのはいいことだけど」  校内を巡回中の教師が不安げにひとり呟く。  「どうして皆、黒い服を着ているのかしら?」  そして文化祭が終わりに近づくにつれ、黒い服の集団はますます増えていく。  「やっぱりDeath C r o wって人気なんだねぇ。コピバン(コピーバンド)なのに、こんなにお客さんが!」  旧校舎の軽音部の部室の窓から、外を眺めていたいつかが嬉しそうに主人に話しかけた。主人の隣にいた一来がびくりと体を震わせると、怯えた瞳でいつかを見る。  部室には今、主人といつかと一来の三人と私しかいない。他の軽音幽霊部員達は文化祭に参加しているのだ。  「お客さん……、たくさん聴きにくるのかな……」  一来が「はぁ」とため息をつく。  「来てくれるよ、きっと! 黒い服ってことは、他のバンドじゃなくて、私たちを観にきてくれているんだよ!」  いつかは一来の(うれ)いにはまったく気が付かない様子で、「くーっ」と握りこぶしを作ってやる気をみなぎらせる。  『しかし、いくらDeath C r o wが人気とはいえ、コピーバンドにこんなにお客さんが来るのは少し変ではないですか?』  「え、そうかな? ……うーん、言われてみれば……、おかしいかなあ?」  いつかが理由を探ろうとするように、あらためて窓の外を眺めやった。
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