262人が本棚に入れています
本棚に追加
/311ページ
予報は、嵐
文化祭は好天にめぐまれた。
しかし天気に恵まれた事を差し引いても、異常なほどの混雑ぶりだ。外部の来客数が少なくとも、昨年の二倍あるいは三倍は来ているのでは、とあちこちで囁かれているのを耳にした。
「お客さんが多いのはいいことだけど」
校内を巡回中の教師が不安げにひとり呟く。
「どうして皆、黒い服を着ているのかしら?」
そして文化祭が終わりに近づくにつれ、黒い服の集団はますます増えていく。
「やっぱりDeath C r o wって人気なんだねぇ。コピバン(コピーバンド)なのに、こんなにお客さんが!」
旧校舎の軽音部の部室の窓から、外を眺めていたいつかが嬉しそうに主人に話しかけた。主人の隣にいた一来がびくりと体を震わせると、怯えた瞳でいつかを見る。
部室には今、主人といつかと一来の三人と私しかいない。他の軽音幽霊部員達は文化祭に参加しているのだ。
「お客さん……、たくさん聴きにくるのかな……」
一来が「はぁ」とため息をつく。
「来てくれるよ、きっと! 黒い服ってことは、他のバンドじゃなくて、私たちを観にきてくれているんだよ!」
いつかは一来の憂いにはまったく気が付かない様子で、「くーっ」と握りこぶしを作ってやる気をみなぎらせる。
『しかし、いくらDeath C r o wが人気とはいえ、コピーバンドにこんなにお客さんが来るのは少し変ではないですか?』
「え、そうかな? ……うーん、言われてみれば……、おかしいかなあ?」
いつかが理由を探ろうとするように、あらためて窓の外を眺めやった。
最初のコメントを投稿しよう!