261人が本棚に入れています
本棚に追加
/311ページ
誕生日には黒い薔薇を
識里の影は後ろを気にすることもなく、歩いて行く。そしてマンションのエントランスに入って行った。周囲の敷地には芝生が生えそろっており、スプリンクラーが等間隔で設置されている。
「五階建てね」
主人も歩調を緩めることもなく、識里の後に付いてマンションに入っていった。
『おっと』
マンションの入り口で、主人は当然立ち止まるものと思っていたので、足を止めてしまった。おかげで突き進む主人に引きずられてしまった。
「重いわよ、フラーミィ」
私は肩をすくめて立ち上がり、人型になって主人の横に並んで歩くことにする。
「識里さんについて行っちゃっていいの?」
一来の疑問はもっともだと思う。
「いいのよ。立派なマンションだもの。きっとオートロックよ。鍵がかかっちゃったら、入れなくなっちゃうじゃないの」
アイラは声を潜めるわけでもない。声に気が付いた識里の影が振り返って、咎めるように目を細めた。
「なにか用?」
「えーっと。あなた、誰だっけ?」
主人は識里の名前を忘れてしまったらしい。それとも、もともと覚えていないのか。
「識里いつか。去年、同じクラスだったじゃない」
呆れたように言うと、石で出来た小さなテーブルの上面にあるパネルのキーボードでいくつかの数字を押した。それから手のひらをセンサーにかざす。ピッと音が鳴り、部屋の番号が点滅した。解錠したのだろう。
「じゃあ、もう帰ってね。さようなら」
最初のコメントを投稿しよう!