誕生日には黒い薔薇を

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誕生日には黒い薔薇を

 識里の影は後ろを気にすることもなく、歩いて行く。そしてマンションのエントランスに入って行った。周囲の敷地には芝生が生えそろっており、スプリンクラーが等間隔で設置されている。  「五階建てね」    主人も歩調を緩めることもなく、識里の後に付いてマンションに入っていった。  『おっと』  マンションの入り口で、主人は当然立ち止まるものと思っていたので、足を止めてしまった。おかげで突き進む主人に引きずられてしまった。  「重いわよ、フラーミィ」  私は肩をすくめて立ち上がり、人型になって主人の横に並んで歩くことにする。    「識里さんについて行っちゃっていいの?」  一来の疑問はもっともだと思う。  「いいのよ。立派なマンションだもの。きっとオートロックよ。鍵がかかっちゃったら、入れなくなっちゃうじゃないの」  アイラは声を潜めるわけでもない。声に気が付いた識里の影が振り返って、咎めるように目を細めた。  「なにか用?」  「えーっと。あなた、誰だっけ?」  主人は識里の名前を忘れてしまったらしい。それとも、もともと覚えていないのか。  「識里(しり)いつか。去年、同じクラスだったじゃない」  呆れたように言うと、石で出来た小さなテーブルの上面にあるパネルのキーボードでいくつかの数字を押した。それから手のひらをセンサーにかざす。ピッと音が鳴り、部屋の番号が点滅した。解錠したのだろう。  「じゃあ、もう帰ってね。さようなら」
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