白詰草を踏む子供

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白詰草を踏む子供

 小学校からの帰り道には、美波が好きな場所があります。白詰草の群生が広がっている、川辺です。  美波はいつも少しだけ寄り道して、春の小川のせせらぎを聴きながら、遊んでいました。白詰草で花冠を作るのも、四つ葉を探すのも、四年生の美波は大好きでした。幸運のお守りになる四つ葉は、まだ一本も見つけられませんでしたが。  ところがこの場所で、最近、困ったことが起きていたのです。 「北川君! 白詰草をいじめないでくれない?」  ある日、美波は胸を張って、同じクラスの北川君に声をかけました。  北川君は、運動好きで体が大きな男の子です。びっくりした顔で、白詰草から運動靴をどけています。 「ここは私のお気に入りの場所なの。だからもう毎日、白詰草を踏むのはやめて」  美波が怒ると、北川君は、高い声を出しました。 「見てたの!? ……俺が白詰草を踏むところ」  悪びれない様子に、美波はいらだちました。 「毎日見てたわ」 「……しまった」  北川君は体を小さくしました。美波はますます胸を張りました。 「とにかく、白詰草に謝って」 「ごめん」  北川君は白詰草ではなく、美波に頭をさげました。 「怒らせたのは謝るよ。でも、これにはちゃんとした訳があるんだ」  それから北川君は、白詰草の群生に手を入れて、ごそごそしました。  そして一本、幸運のお守りを手にしました。 「四つ葉だ!」  美波は、北川君が持つ四つ葉の白詰草に、目を輝かせました。 「四つ葉のクローバーは、踏まれたりして傷つかないと生まれないんだ。……この川べりはあまり人に踏まれない場所だから、俺はわざと踏んでいたんだよ」  北川君がぼそぼそした声で言いました。 「北川君、詳しいんだね」  美波は感心しました。  いつも運動に夢中な北川君が、植物が好きそうなのは意外でした。  なんだか仲良くなれそうです。 「この四つ葉、あげるよ」 「いいの?」 「だっていつも、ここで探してただろ」  今度は美波が高い声を出しました。 「見てたの!?」  毎日見てたよと、返されました。
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