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矢の如く勢いで放たれた白い点を猛獣の目で捉え、考えるより先に全身の筋肉を躍動させ、迫る点を力任せに打ち砕く。金属バットの甲高い音がグラウンドにこだまする。 相当な負荷がかかっているのだろう。 スイングする度に顎をさするタクヤ。 インパクトの瞬間、仮に鉄の棒をくわえさせれば、噛み切ってしまうかもしれない。 『暴力的な』と言ってもいいくらいにタクヤのスイングは野蛮だった。当たったボールが砕けてしまわないかと思うくらいだ。 南校舎の屋上からでもタクヤの姿は認識できた。 目立ちたがり屋のタクヤは人一倍動きが活発だったから。でもそれだけじゃない。優しくもあった。昔から、すごく優しかった。だから当然、モテた。 ライバルは沢山いる。 でも……私は……きっと誰にも勝てない。 多分、一生。 タクヤとは幼馴染み。 小学生の頃はよくやった。 「キャッチボールしようぜカツミ」 「うん、キャッチャーするからタクヤはピッチャーね」 リトルリーグに入ってバッテリーを組んだこともあった。今だからわかる気がする。タクヤは気を遣って本気で投げていなかった。昔と今では、目つきが違うから。 中学に入ると違う道を選んだ。 タクヤはそのまま野球部に。私は吹奏楽を始めた。 私がタクヤを意識し始めたのも丁度その頃だった。 突然、異物が体の中に湧きたち、沸々と胸のあたりが熱くなった。
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