0人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
でも、それが何なのか。どうすればいいのか。
全然わからなかった。
それが何か、理解したのは学年が一つ上がった中学二年になってからだった。
「カツミ?タクヤと幼馴染みなんだよね?彼、彼女いるの?」
なんで私に聞くの?聞いてどうするの?
「ねえ、お願いがあるんだけど。これタクヤ君に渡してくれない?」
手紙……。ラブレター。
この時知った。『好き』と言う感情。
そして自分にその感情があると確信したのは、五月の連休明けの、ある昼休みの出来事だった。
クラスの女子数人にトイレへ連れていかれた。
「あんた、気持ち悪いんだけど」
バケツで目一杯の水を浴びせられた。
タクヤに近寄るなとの警告と制裁。
そんなことで私は負けない。
これ以上負けてたまるか!
それからだった。
私が感情の渦に飲み込まれていったのは。
鏡のように真っ平らだった水面に小石を投げ入れた様に、私の心は一気に波打った。
「この前の手紙、タクヤ君にちゃんと渡してくれた?」
「渡したよ。なんで?」
「返事……まだだから」
「なんで私に聞くの?本人から直接聞けばいいじゃん」
この子が裏で、私に制裁を与えた女子を操っていたのはなんとなくわかった。トイレへ呼ばれる回数が増えたから。
誰かに助けを求めることはしなかった。
体裁のみを取り繕うような対処になんの意味があるのか。特に教師はあてにならない。
「くだらない……」
私に向けるその気力をタクヤにぶつければ、幾らかでも振り向いてくれるかもしれないのに。
私ならそうする!
私には他人にかまってる余裕なんかカケラもないから。
私の気持ちなど、誰も分かりはしない。
誰も私の気持ちなんか分からない。
タクヤでも、分からないだろう。
私もタクヤの気持ちは分からない。
クラスの女子から預かったラブレターの返事もまだ。
彼女がいるのかの質問も未回答。
タクヤは何を考えているのか。
一緒に帰ったりするけど、そういう話にはならなかった。
最初のコメントを投稿しよう!