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でも、それが何なのか。どうすればいいのか。 全然わからなかった。 それが何か、理解したのは学年が一つ上がった中学二年になってからだった。 「カツミ?タクヤと幼馴染みなんだよね?彼、彼女いるの?」 なんで私に聞くの?聞いてどうするの? 「ねえ、お願いがあるんだけど。これタクヤ君に渡してくれない?」 手紙……。ラブレター。 この時知った。『好き』と言う感情。 そして自分にその感情があると確信したのは、五月の連休明けの、ある昼休みの出来事だった。 クラスの女子数人にトイレへ連れていかれた。 「あんた、気持ち悪いんだけど」 バケツで目一杯の水を浴びせられた。 タクヤに近寄るなとの警告と制裁。 そんなことで私は負けない。 これ以上負けてたまるか! それからだった。 私が感情の渦に飲み込まれていったのは。 鏡のように真っ平らだった水面に小石を投げ入れた様に、私の心は一気に波打った。 「この前の手紙、タクヤ君にちゃんと渡してくれた?」 「渡したよ。なんで?」 「返事……まだだから」 「なんで私に聞くの?本人から直接聞けばいいじゃん」 この子が裏で、私に制裁を与えた女子を操っていたのはなんとなくわかった。トイレへ呼ばれる回数が増えたから。 誰かに助けを求めることはしなかった。 体裁のみを取り繕うような対処になんの意味があるのか。特に教師はあてにならない。 「くだらない……」 私に向けるその気力をタクヤにぶつければ、幾らかでも振り向いてくれるかもしれないのに。 私ならそうする! 私には他人にかまってる余裕なんかカケラもないから。 私の気持ちなど、誰も分かりはしない。 誰も私の気持ちなんか分からない。 タクヤでも、分からないだろう。 私もタクヤの気持ちは分からない。 クラスの女子から預かったラブレターの返事もまだ。 彼女がいるのかの質問も未回答。 タクヤは何を考えているのか。 一緒に帰ったりするけど、そういう話にはならなかった。
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