趣味とバイトと白雪くん

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「写真集と……手紙?貰って良いの?」 「っ!」  まるで赤ベコのように首を縦に振った。 「ありがとう。それじゃあサイン書かせてもらうから……」  彼は手紙を受け取ると、写真集にサインを書いてくれた。 「名前は?」 「っ……し、白雪です!」 「白雪ちゃんか……綺麗な名前だね」 「っ……あ、ありがとうございます」 「それじゃあ写真撮りまーす!」  サインされた写真集を受け取ると、カメラマンさんに指示され彼の隣に立った。緊張でガチガチだったが、少しぎこちなく微笑むとシャッターが落とされた。写真はすぐに受け取る事が出来て、嬉しさで心がいっぱいになった。  写真集も写真も一生大事にしよう。もう死んでもいい……。 「今日は会えて嬉しかったよ。手紙ちゃんと読むから……また会えると嬉しいな」 「っ……は、はい……またいつか……!」  返事を返す前に、僕は現実に引き戻された。  今更だけど、女装姿で会いに来ている僕は赤羽様に嘘を付いている。憧れの人に嘘を付いているのにまた会いに来るなんて……ファンとして最低だと気付いてしまった。 「……っ……さい」 「え……?」 「ごめんなさい!」  僕は後退り、まるで逃げるようにその場を去ってしまった。  その後、家に帰った僕は女装姿を見られないようにすぐ自分の部屋に閉じ籠もった。写真集と写真を抱き締めて、赤羽様に会えた嬉しさを感じながらも。女装して彼を騙した罪悪感もあって、複雑な気持ちを抱いていた。  この時、僕は慌てて帰ってきたせいで落とし物をした事も、手紙にミスがあった事もまだ気付いていなかった。
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